おバカ丸出しの人
よく、自分の上司の悪口を言っている人がいる。
「俺の上司が本当にバカでさ~、知性の欠片もないんだよね」
その上司に使われて、立場を逆転させることもできない自分の無能さを人に吹聴して回っている姿はとても滑稽だ。
また、自分の部下を小バカにして酒を飲んでいる人も見かける。
「ほんっと使えねえんだよ、あれだ、ゆとりだゆとり。親の顔が見てみたいね」
ひとりの若造に仕事をしっかり教えることもできない指導力のなさを人に聞かせてどうするんだ。「私はバカですよ~!」と伝え回るのはいかがなものか。
自分の彼女や嫁の悪口を肴にしている人もいる。
「あいつ、うるさいんだよ。ちょっとキャバクラに行ったくらいで怒って」
「うちのは家事を全然しないんだよ。もっとしっかりしたいい女つかまえればよかったな」
これもキツい。伴侶は大抵自分と同じレベルの人間だ。相手をバカにすればするほど、自分のバカさ加減を露呈しているようなもの。もちろん、カレシや亭主をバカにしている人も同じである。
人間、自分の周りを見てみれば、己の器や人間性がよくわかるもんだ。
付き合っている人間や勤めている会社、取り囲んでいる環境は自分の写し鏡なのだ。
それが自分のレベルであり、自分の行いの結果だ。
環境や人間関係に悪態をつき、罵声を浴びせたとて、鏡に向かっている自分の顔を見て文句を言っているようなものである。はっきり言って、バカ丸出しだ。
先日、酒を飲んだときもそうだった。
嫁同士も仲のよい、もうほとんど上下関係もなくなった昔からの地元の後輩と居酒屋に行ったときのことである。
その後輩が少し酔い始めた頃、「実は今度、合コンやるんですよ」と言い始めた。
ぼくは後輩の嫁とも約10年ほど前から顔見知りであり、仲がよいこともあって、「なんだよそれ。やめとけよ」と言った。
しかし後輩は「いや、でも、参加する女がけっこうかわいいって話なんですよ。最近、嫁ともご無沙汰ですし、なんかいいことあればなって。正直、嫁とするのって、毎日見てる顔だし、飽きません?」
実は、ぼくは知っていた。
後輩の嫁も最近、浮気をしたそうだ。嫁からの情報だった。昔の男とSNSで偶然出会って、後輩とご無沙汰だったこともあり、一夜をともにしたそうである。
ぼくは後輩の情報も、後輩の嫁の情報も、それぞれに漏らすことはしない。人の夫婦関係に立ち入って、よいことは何ひとつない。
ただ、自分も同じような過ちは犯すまいと肝に銘じるだけだ。
飽きた嫁の代わりに他の女を探す。
ご無沙汰の旦那の代わりに、昔の男に抱かれる。
言葉だけ聞けば、それぞれ互いにとって、とても合理的な行動をとっている。
でも、もしぼくがふたりにそれぞれの行動について告げ口をしたとしたら、どちらも烈火のごとく怒り出すことだろう。間違えば離婚問題に発展するかもしれない。
怒る理由は、ただひとつだ。バカにされたと感じるからである。
先にバカにしたのは、間違いなく自分のほうなのに。
人はついうっかり、自分の立場のみを考えてものを言う。
しかし、自分の立場なんて、人が作ってくれたものばかりだ。
「飽きた」「バカだ」「無能なヤツだ」
そんな悪口を言う前に、周りの人にとって少しでも良い写し鏡になれるよう、自分を磨きあげるほうが賢明ではないかと、わたしは思う。